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地球の肺を守るために~コンゴ熱帯雨林保護の現場から(第3回)貧困が生む原生林破壊の現状=大仲幸作

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今回の出張先であるキサンガニの位置図(キサンガニはアフリカ大陸のおへその部分に孤島のように残るコンゴ盆地熱帯雨林の核心部)

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今回の出張の目的地であるコンゴ盆地最大級の町キサンガニ(街の中央をアフリカ第二の大河コンゴ川が貫く)

 「お父さん、インタビューさせて!」。仕事から帰宅すると、コンゴ民主共和国で現地のインターナショナルスクールに通う娘から、いきなりそう切り出されました。学校からコンゴの環境問題について宿題が出たとのこと。娘は私に聞けば一件落着だと喜んでいます。
 私は仕事上、「森林、特に貴重な原生林の減少がコンゴで一番の環境問題だと思うよ」と娘に言いました。「原生林って何なの?」。「どうして森は減ってるの?」。娘は容赦なく私に質問を浴びせてきます。私は、これまでほとんど開発されてこなかった森林のことを「原生林」と呼ぶこと、この「原生林」は温暖化を防ぎ、貴重な野生の動植物を育み、新たな感染症の発生を予防するなど、人類の生存にとって大変重要な役目を担っていることを説明しました。続けて、コンゴではその「原生林」が貧困のために急速に減少していることを説明すると、娘は「貧困?」と聞き返すように少し首をかしげました。

 先日、米国の大学や研究所などが進める「グローバル・フォレスト・ウォッチ」という取り組みが、人工衛星などで分析した最新の森林減少面積を公表しました。昨年の世界全体の森林減少面積は、日本の本州より少し大きい25万平方㌔、そのうち、途上国の「熱帯原生林」は、ちょうど九州くらいの3.8万平方㌔が減少しました。国別ではアマゾン熱帯雨林を抱えるブラジルに次いで世界で二番目に多いのが、ここコンゴ民主共和国となっています。コンゴの熱帯原生林の減少面積は東京都の約2.5倍に相当する5000平方㌔。たったの一年で、「地球の肺」と呼ばれるかけがえのない森が、そんなに消えてしまったのです。
 では何故、コンゴ民主共和国において、それだけの規模の原生林が毎年消え続けているのでしょうか。娘には、自分でより深く考えてもらおうと、わざと「貧困」としか答えませんでしたが、かみ砕いて言えば、貧しい人々が森林を破壊しながら日々の生活の糧(食べ物だけではなく現金収入も含む)を得ているということです。 

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コンゴ盆地の焼き畑現場、原生林へと続く未舗装道に沿って数十キロにわたり延々とこうした光景が続く。

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貧困で苦しむ人たちにとって製炭(白い物は炭袋)は最も手っ取り早い現金獲得手段である。

 コンゴ盆地の原生林では、先ず高く売れる巨木が木材業者によって選択的に伐採(「択伐」といいます)されます。その後、劣化した森に現住民が入り、残っている雑木から現金収入のための炭などを作り、そして火を入れます。積もった灰は天然の肥料です。その土壌でトウモロコシ、キャッサバやバナナなどを栽培します。その土地で、何年間か作物を栽培し続け、土壌養分が乏しくなると別の場所に移動します。焼き畑の跡地はその後、自然に再生します。
 この行為は専門的には「焼き畑」と呼ばれています。伝統的な「焼き畑」は人口密度が低ければ、熱帯林の利用と再生が均衡し、持続可能な農業活動を実践することができます。しかし、貧困地域では人口が急増し、「焼き畑」を単なる森林の破壊活動へと変容させてしまっている実態があります。

 先日、当地のコロナ感染が下火となる中、ようやくキンシャサからコンゴ盆地の核心部に出張する機会を得ました。飛行機でコンゴ盆地最大級の町であるキサンガニに降り立つと、原生林に向かって何十キロと続く未舗装の道路に沿って、延々と焼き畑が原因の焼け野原が広がっていました。森林の専門家として、熱帯林破壊の現状は頭では理解しているつもりでした。しかし、「百聞は一見に如かず」とは、まさにこのこと。実際に現場をこの目で見て、改めてその深刻さに言葉を失いました。
 「コンゴに滞在する森林の専門家なのに一体何を言っているんだ」とお叱りを受けるかも知れません。しかし、出張許可の取得(コンゴ民主共和国の環境省では、政策アドバイザーである私自身を含め、職員一人一人の出張を大臣が直接認可)、移動手段の確保(地方へのフライトは週1~2便しかなく、機体不足などからキャンセルも非常に多い)、安全対策の徹底(森林地帯では単独ではなく、2台以上のオフロード車で車列を組んで移動)、さらにはコロナ対策等々、首都キンシャサにいても、コンゴ盆地の熱帯林破壊の現場を訪れることは決して容易なことではないのです。

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原生林にたった一本の道路が入るだけで周辺の開発は急速に進むこととなる。

 赤土の悪路を飛ばす車の窓から延々と流れ続ける焼け野原の光景を眺めながら、私は専門家である前に、「この地を訪れることができた数少ない日本人の一人として、この惨状を黙って見ているわけにはいかない」と強く思いました。
 今回は「地球の肺」、そして「地球最後の秘境」とも言われているコンゴ盆地の最深部で今起こっている熱帯林破壊の現状を知っていただくために、いつもより多めに写真を掲載します(下段の「写真ギャラリー」に収録)。地球上の全生物にとって、コンゴ盆地はかけがえのない宝物です。昨年末、英国グラスゴーにおいて開催された気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)において、日本政府を含む先進諸国が、コンゴ盆地の保全に向けて特別に共同宣言を採択しました。世界中の人々一人一人の課題への理解、そして解決に向けた強い決意の下、今こそ国際社会は「貧困による自然環境の破壊」という負のスパイラルを断ち切らなければいけない時にきています。
(つづく)


大仲幸作(おおなか・こうさく)1999年に農林水産省入省。北海道森林管理局、在ケニア日本大使館、農水省国際経済課、マラウイ共和国環境省、林野庁海外林業協力室などを経て、2018年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザー(JICA専門家)としてコンゴ民主共和国環境省に勤務。


地球の肺を守るために(第3回)写真ギャラリー

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伐採された巨木の切断面(木口)を注目、チェーンソーの普及も森林減少の加速化の一因であると言われている。

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焼き畑現場の風景、手前の緑は雑草ではなく人々が直播した陸稲(おかぼ)である。

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焼き畑跡地に捨てられたカカオの殻、現地では換金作物として今、チョコレートの原料となるカカオ栽培が流行している。

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焼き畑農家(写真中央)に聞き取りを行う。彼は地主からヘクタールあたり5万円ほどで森を購入したと私たちに話した。

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焼き畑を営む人々、焼き畑は彼らの日々の生存をかけた活動となっている。

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幹線道路の分岐から何十キロと走った突き当りに伐採現場のゲートが設置されていた(この日、木材業者から視察許可は下りなかった)。

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キサンガニ大学の博物館に飾られたゴリラのはく製、周辺の森からはゴリラも時折出没している。

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